Software EngineerがSports Businessに行ってみた話(ex-MIXI Advent Calendar 2023/12/01)

Advent Calendarとしては通算3回目、個人的に関わるのは2度目のex-MIXI Advent Calendar 2023、初日は masartz がお届けします。
ちなみに前回2017年のときの記事はこちら。

masartz.hatenablog.jp

MIXIには2007年から2014年まで7年間所属しておりました。
当時もちろんSNSmixi」を使っていた自分も時を経て、今は「みてね」に子供x2の写真・動画をアップする毎日です。
SNSmixi」が来年に20周年、モンストが今年10周年など既存の事業が長い間継続し続けているのも素晴らしい一方、スポーツビジネスの領域などにも取り組み、今はJリーグのFC東京の親会社という立ち位置であるのも、当時は全く想像できなかったことでした。
一方、今所属するメルカリも同じくJリーグの鹿島アントラーズをグループ会社に迎え入れています。 Jリーグの試合で「自分のキャリアダービーマッチ」ができる人はなかなかいないんじゃないかと思うし、サッカーファンとしてとても幸せなことだと思っています。そしてサッカーファンであることを拗らせて、実は2021年10月から2022年3月までの半年間、Software Enginnerとして鹿島アントラーズの業務に携わっていました。
「鹿島でエンジニア?」と色々と聞かれることがあるので、せっかくなので「スポーツビジネスとSoftware Engineer」というテーマで書いてみようかと思います。

取り組んだ経緯

前提として、当時入社後5年くらい経っていて、事業やRole( Enginnering Managerをやったり、Technical Product Managerをやったり)でできることはやった一方、成果はどれもあまり出せずに行き詰まっていた。そんな時に、アントラーズを含むSportsBusiness事業のチームにjoinできる機会があった(※現行の採用プロセスは異なります)。状況としてはそれまでいなかったSoftware Engineer第一号だったので、定められたJDのようなものはなく、「自分で切り開けられれば、なんでもできる」状態だった。なので、「Software Engineerとしてスポーツビジネスにコミットできるのか」という課題の検証をするべく、飛び込んでみたというのが事の発端だ。

実際に業務を始める際に事前に想定していた事として、おそらく業務にいくつかのベクトルがあるのだろうなと思っていた。

  • For Customer
    • いわゆるサポーター向けのtoC施策、オンライン・オフライン含めた様々な施策がある
  • For Football, Player, Team
    • 根幹であるチーム運営に関わる様々なこと。チーム強化に関わること全般
  • For Company
    • 鹿島アントラーズ社に対して、会社運営に関わること。Corporate IT と呼ばれる分野を含む様々なこと

という分類分けをしていたけど、アントラーズの組織もまさにこのような感じで部門が分かれていて、初期のキャッチアップが思った以上にやりやすかったりした。

やってみてどうだったか

結論としては、Webサービスを提供・運用する事との違いの大きさをまじまじと感じた、というまとめになるのだが、もう少し紐解いていく。

ビジネスグロースについて

スポーツビジネスはスケールしない、と書くとかなり語弊がある。Webサービスのスケールが異常、というのが正しい。ある日を境にユーザー数が10倍になったりすることが平気であるのがWebサービスだ。
一方で、スポーツビジネスではそんな事は起きないし、ある日突然10倍の入場者にスケールする事とかはない。これはスポーツビジネスに限らず、物理プロダクト(鹿島ならサッカーチーム)を持つ事業に当てはまる。

sotarok-sanのblogを引用させてもらうと

note.com

  • MAU1000万とか、CVRが2%改善したとか、流通量が100億を超えたとかを目指して作り上げていきます。インターネットを利用したスケールするビジネスと言う事は基本的にそういうことなのです。
  • まず場所や広さによりMAUの最大値がほぼほぼ決定されます。利益率や顧客単価は努力で上げ得るものもありますが、それでも上限値は存在します。つまりビジネスはスケールしません。
  • 一方で、ミクロなレベルでの体験の濃厚さと言うものが存在します。

上記のように書いており、まさしくこれである。

テレビ(DAZNなど含む)を含めた視聴者つまりお客さまというのは地球規模で数えられるほどのスポーツがサッカーなのだが、個々のチームかつ、その事業的な面も含めて見ていくと、スタジアムに来場するお客さまからの入場料やグッズ収入というのがスポンサー(パートナー)収益と並んで売上の大きな柱となる。そしてこの変数の一つの要素であるスタジアムのキャパシティというのはWebサービスインスタンスのようにある日突然倍増するものではない。

一方、Webサービスを運営している事業の場合、無限のスケールからくる無限の売上によって莫大な投資をしたりする。技術投資もその一部に含まれ、Software Engineerの生産活動と生存領域はその中にある。一方で、スポーツビジネスは年間の売上・予算などの上限値が実質的に存在し、利益も必然的に導かれる中で生きていく必要がある。まして、当時はまだコロナ禍だった。

となると、Webサービスのような大きな技術投資をするよりも、技術によって業務効率化を図るのが最も合理的なアプローチになる。いわゆるDXが一番効きやすい部分だ。これは上述の分類分けでいうと「For Company」の部分に該当する。コーポーレート部門(社内IT)としての活動がイメージしやすいと思われる。具体的な業務としては「SlackのIntegrationを作成して、〇〇を効率化しましょう」とかになる。

ついでに他の領域の部分を具体に落とし込んだ説明をすると、「For Customer」は例えばサポーター向けの公式アプリを通じて、エンゲージメントを増やすための施策検討などだ。さらに補足すると「For Business Partner」もこれの隣にあたるところにあり、いわゆるスポンサーへの営業や権益に関わる部分がある。そこで技術的に検討できそうだった例として「物理の広告面に対して、各スポンサーロゴの紹介を個々の契約形態を考慮しつつ、どう最適に表示するか」みたいな課題があったりした。

最後の部分が「For Football, Player, Team」であり、チーム強化の部分。ここに対するSolutionとしてイメージしやすいものとしては「試合映像を解析して、戦略分析に役立てる」みたいなカッコ良さそうなやつだ。一見やれる余地があるように見えるが、実はこの分野は結構開拓されていて、海外を含めたベンダーがたくさんある。とても一人でゼロから事業を立ち上げて、太刀打ちできる領域ではなくて、ベンダーの技術選定をしたりする方が余程エンジニアリングの価値を出せたりする。また、ここにもスポンサー権益ビジネスという側面があり、スポンサーとのリレーションを活かしたコスパの良い技術選択というものも、事業的に見て大事なポイントだったりする。

Software EngineerとSoftwareのコアコンピタンス

要約すると、「ガリガリコード書いて、Productを作りValueを出す」ような直球勝負ではなくて、技術力を活かしたそれぞれの領域の期待成果を出すようなアプローチが導かれる。そのもう一つの前提が、Software Productが事業のコアコンピタンスではない、という事実だ。
鹿島アントラーズコアコンピタンスフットボールチーム、つまり主役はサッカー選手だ。

これまでのキャリアで、ありがたいことに「エンジニアさんあっての(事業|会社)ですから、ありがとうございます」みたいな事を言われる事があった。そのたびに「いやいや、みんなで作っている(事業|会社)でしょう」と思ったり返答してきたつもりだ。今でも本当にそう思っているが、一方で「エンジニアが主役」であることもまた事実なのだと感じた。それは鹿島で「主役ではない」環境を経験したからこそそう思う。

どんなに良いSoftware Productがあったとしても、また仮にそれをゼロから作ったとしても、それによって本当の意味で「直接的に」勝利に貢献するということはない。もちろん間接的には、試合環境を整えたり、サポーターの熱量を高めたり、チーム強化をしたり、などが勝利の変数にはなっているのだが、そのインパクトは決して大きくない。何と比べて大きくないか、と言えば、Webサービスを提供するためのProductのコードを書くことと比べてである。

例えばサポーターの熱量が勝利にどれだけ貢献するかで言えば、俺はサッカーは12人でやるものだと思っているし、W杯を現地で観て勝利の瞬間を経験した身として、そのインパクトの大きさを絶対的に信じている。

あくまでWebサービス運営との比較である。Webサービス運営において、エンジニアは確実に試合のピッチの上に立っている。ボールをゴールに突き刺すことができる立ち位置だと思う。かつてEngineering ManagerやTPM(Technical Product Manager)をやって、「現場からは退いてしまったか」という葛藤がずっとあったが、どのRoleもピッチの上でのポジションチェンジだったと思う。

まとめ

という訳で、Software Engineerとして出せるValueが(相対的に)少ない立ち位置で、見込める事業成果の規模に対してコミットし続けるか、という選択を改めて問うた時に、せっかくのチャンスだったが今回は離れようという決断をして、メルカリ側の事業に戻った経緯でした。悩むポイントはたくさんあり、ちょっと挙げるだけでも

  • 役割が固まってない魅力、なんでもできる段階である点
  • サッカーファンとして、働く環境の魅力
    • 選手の練習グラウンドが窓から見える
    • 業務中にうっかりジーコとすれ違う
  • ゼロイチフェーズっぽい成長余地
    • 本職のスポーツビジネスとしてはもちろん歴史・伝統ありなのだけど、Engineeringで改善できる余地は多分にある
  • 地域密着の理念とその実践ができる

などなど、伝えきれてない魅力は他にもまだあると思いますが、例えばそんなところ。

振り返ってみれば、限られた期間の取り組みだったが、携わるときには「このままサッカービジネスに行くかもしれないな」と本気で想像しながら取り組んだし、今でもボランティアベースで関係は継続させてもらっている。 メルカリ内でなければできない挑戦だったし、言うても当たり前にSlackを導入できていて、使いこなせてるリテラシーのあるJクラブがどれだけあるのか、っていうのは環境的に恵まれていたことを強く推しておきたい(FC東京もそうであることを願いますが)

また、このチャレンジを後押ししてくれたのも、小泉さんはじめ、元MIXIかつ現メルカリの関係者のご協力と配慮があってのことだったので、改めて「mixiが築いたつながり」の強さを感じる経験でした。

という訳で、改めて「Software Engineerとは Software事業を牽引するキープレイヤーである」というありがたい事実を知ると共に、それでもやはり「事業とは様々な役割の人、様々な取り組みによって支えられ、作られていくものである」と思います。MIXI社の事業も、メルカリ社の事業もそうであったし、これからもそうあることを願ってます。